ぷれこんさあと

【2016年2月~3月】

人懐っこいバロック音楽

 世界史で「中世とは、古代と近代の間にあるので、その名がついた」と教わった時、先ず安直なネーミングに驚き、ほぼ4世紀末から15世紀半ばまでの千年以上もの長い間を、一括りにするなんて西洋の歴史学者というのは、ずいぶん乱暴だなと思った。しかも文化を後退させた「暗黒時代」とまで蔑(さげす)まれている。

 その末期、13世紀末にイタリアで起こったのが、栄光の古代ギリシャ・ローマ文化を再興しようというルネサンス運動。16世紀末ごろまで徐々に西ヨーロッパに広がったが、せっかくルネサンスしたのに、反動したと後の世が蔑称したバロック期(~18世紀中葉)に至る。

 音楽史上では、蔑称どころか、一時期は抹殺されていた。今では「音楽の父」と呼ばれるJ.S.バッハ(1685-1750)は「古臭い」と死後百年間ほぼ忘れ去られていたし、殆どのイタリアン・バロック作品に至っては「低俗だ」と二百年以上も振り返られなかった。20世紀も後半、ヴィヴァルディ(1678-1741)のヴァイオリン協奏曲「四季」のLPレコードの発売によって、その人懐っこくて人間味溢れる音楽が復興したのだ。

 このバロック期、実は現代にも続くオペラ、オーケストラ、ソナタにコンチェルトなどの演奏形態が始まった時代。特に器楽による音楽が、急速に発展した。それには、なんといってもイタリアでのヴァイオリンの完成がある。この楽器の飛躍的に向上した表現能力に、当時の作曲家たちが、飛びついたのである。

 そこで今回の曲目を見渡してみよう。自身優れたヴァイオリニストとして活躍したコレッリ(1653-1713) のヴァイオリン作品。その中でも特に人気の高い、私も大好きな「ラ・フォリア」が演奏されるのは喜ばしい限りだ。彼は後世の作曲家たちに大いにインスピレーションを与え、器楽作品の傑作群が生まれる土壌を準備したと伝えられている。彼に続いたヴィヴァルディのソナタも大いに楽しみ。これらイタリアン・バロック作品を綿密に研究し、集大成し熟成したJ.S.バッハの極め付きの作品群!だからバロック期の傑作を一望にできる今回、聴き逃す手はないのだ。

ロレンツォ・ギエルミ

 演奏がしかもバロック音楽の真の姿を伝える「古楽の至宝」と称えられるギエルミ!共演の平崎真弓は古楽の重鎮たちと数多く共演する若き精鋭。踊るようなしなやかな身のこなしと、研ぎ澄まされた感性によってコントロールされる弓!作品の息遣いをまさに体現するものだ。

二人の美、遊戯、機知を顕現させる演奏は、単なる「復元」に留まらない「創造」ですらある。不朽の傑作が今、新しく命を持つ時を聴こう!

プラバホール 芸術監督 長岡 愼
(文中敬称略)

 

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